ありがとうの5日間

平成23年3月11日の東日本大震災からはや1年。
復興する今日までの中にたすけあうよろこびがありました。
福岡教区ホームページ「黒門」では教区報「たすけあい」に掲載された連載エッセイ「ありがとうの5日間」の原文を「たすけあい」と同じく5回(5カ月)に分けて掲載していきます。

ありがとうの5日間

1日目
平成23年11月5日(土)晴れ
午前6時。いつもと同じ音色の目覚ましの音とともに目を覚ます。高台に位置する休暇村から海岸に車を走らせる。通勤、通学時間と重なり少しずつ車の通りも多くなりつつある。
次第に震災の足跡の姿が見えてきた。国道沿いの鉄筋コンクリートやセメント以外の建物は、跡形もなく姿を消している。むき出しの鉄筋、ぶち壊れた壁、粉々になった窓ガラス。その奥に潜む瓦礫の存在。残されているのは、基礎部分のコンクリートのみ。その姿は、新築の前の土台の姿とは、まったく意を別にしたものだった。

宮古市から約1時間。吉里吉里(きりきり)町のトンネルを抜けた途端、見える世界の姿が一変した。我が目を疑う。この世にこの様な街の姿が存在するのかと。悲しみと、驚きと、どうしようもない居たたまれなさ。言葉も見つからない。8カ月も過ぎたというのに。59年間生きてきて、初めて目にするこの現実。命と時間と、そして全てを失った瞬間が、8カ月という時を過ぎて今、目の前にある。

宿舎を出たのは、午前7時15分。ナビを頼りに現地へ急いだ。到着は午前8時30分。ボランティアセンターにて、少し遅れての朝のミーティングへの参加だった。到着と同時にそれぞれの自己紹介をする。今日の参加者は約40名。ボランティア班、生活支援班にそれぞれ配属される。午前中は全員ボランティアサテライトに移動。今日の活動を指示される。実働は午後からとのこと。午前中は、大槌町の現実を案内していただいた。
社協(社会福祉協議会)職員の女性より案内されたところがあった。それは震災の後片づけをしていた場所である。そこには1本の大根が育っていた。今は大きな青首が、大地より伸びだし、生き残ったその命を示していた。ただ1つの命の声が「俺もがんばっているぞ」と伝えてくるようだ。
職員の女性に「ご家族はご無事でしたか」と問うと「はい、みんな元気です。ただ父がまだ見つかりません」と。その後言葉を返せなかった。

町の中心部に車で移動。目にする現実は、現実なのにその事実を受け取れない自分がいる。かなりの瓦礫が片付いていると説明を受けるが、理解するのには時間が必要だ。
被災した役場前に立った。正面玄関の前には、花束が供えてあった。2階の方を見上げると、時計が3時30分を指して止まっていた。ここに押し寄せてきた津波の到着時刻だろう。ここではその瞬間から時間が止まっている。2階へ足を運んだ。窓も壁も粉々に砕け、床にはまだ書類や棚が散乱していた。えぐり取られた壁から外を見ると、押し寄せる津波から屋上に避難していた人々の姿が放映されていた病院が見えた。一瞬にして8カ月前の状況が思い出された。出会っている今を、直視せざるを得なかった。これが現実なのだ。

午後、山手に向かって川沿いに車を走らせる。山手に向かうにつれて仮設住宅の姿が見えてくる。数十世帯の規模から、数百世帯にレベルまで地域の状態によって設置されている。しっかりした基礎の上に設置されたもの、すぐにも湿気が気になるような状態のものまで様々である。この設置状況の違いは、今後の課題となるだろう。
「サポートセンター和野っこハウス」を訪ねる。仮設のデイケアである。この施設は、かなり恵まれた対応ができている。広いスペースと、レベルの高い設備、そして明るく開放感がありゆったりとした空間である。内装も自然の色調で工夫されている。とても仮設とは思えないほど別世界である。

施設の一角で、うどん作りの「りき」さんと出会う。香川西工業高校の教師。震災から間もなく現地に入り、炊き出しの支援を続けている。多くの方々の信頼を得ておられるとのこと。ご本人からは、初めて会ったにもかかわらず、親しみを感じる。行政の取り組みなどについても、まっすぐな言動は周りの人々に共感と信頼を与え、この周辺地域で「ボランティアのりきさん」といえば知らない人はいないとのこと。
なぜこうまでして、そこまでして自分の大切な時間と心を提供し続けられるのか。生かされている感謝への思いがひのきしん、という活動の形でつとめさせていただいていると思っている自分の姿と、どう違うのか。ただひたすら頭の下がる思いだ。

5時のミーティングが終了。帰路に着く。すでに周囲は真っ暗。灯りのない真っ暗闇の町があった。街頭、店の看板のライトや、色とりどりのネオンの光り、住居からもれる団らんの灯り。その全てが消去され、削除されている。車のヘッドライトのみで、国道を走る。日常生活にはない全くの暗闇の町。車窓からは遠く高台に見えるわずかな光が目を引く。

福岡より派遣された6人が夕食をともにする。今日の現実と今のこの幸せとの間の現実に出会う。豊かな食材を目の前にして、心より感謝をささげたのは私だけではなかった。

・筆者 プロフィール

具志道次(ぐし・みちつぐ)
天理教幸若分教会長

平成23年11月5日から9日まで、福岡県消防防災課の要請により出動となった天理教福岡教区災救隊(災害救援ひのきしん隊)第1班と共に岩手県大槌町へ。現地では生活相談員として活動。